IBMが量子コンピュータ実現に新たな一歩

 1980年代から話題に上るようになった量子コンピュータの実現に向けて、IBMが新たな試みに成功したと発表している。あと50年はかかると言われていた量子コンピュータを10〜15年で実現できるとするのだが、どうだろうか。

IBM、量子コンピュータ実現に向けて新たな一歩(ITmedia)

 量子力学的状態の重ね合わせ(superpose)は、量子コンピュータの原理そのものでもある。その意味合いは量子力学を深く理解していないと、計算はできても納得はできないものだろう。情報伝達にまさにこの重ね合わせを利用する。ある意味、波の重ね合わせだから外部からの干渉により、これは壊れやすい。なるべく重ね合わせの時間が長いほど情報伝達も正確になっているということだろう。重ね合わせが崩れるまでの時間を「デコヒーレンス時間」というそうだ。「コヒーレント(coherent)という言葉はレーザー光にも使われている。一定の振幅・位相の波を表すと同時に、相互の波の干渉のしやすさを表している。


 波といっても古典的な局所的なものと異なり、量子力学的波は遠方とのものとも重なりえるので、これを積極的に量子コンピュータに利用することになる。ただ、形式的には量子力学的波は確率を表すと解釈されるので、いかにビット計算のように確定した演算として取り出すかが問題となる。「oか1か」あるいは「生か死か」といえば「シュレーディンガーの猫」のような問題となってしまう。まして外部からの干渉で波が崩れるならば、それはビットエラーになってしまうことになる。


 それはともかくとして、量子コンピュータ実現のための最大の問題はアルゴリズムよりも、こうしたことを制御できる素子やデバイスであろう。そこに今回「3次元超電導量子ビット」なる、空洞のサファイア片に量子ビットを作る方法であるという。サファイアと聞くと、宝石として高価そうな印象は受ける。


 IBMはPCの生産からこそすでに撤退しているが、昔からスーパーコンピュータをはじめ、まだまだこうした基礎研究を時代とともに続ける余力と土壌はあるようだ。その点が新興のIT企業などとも異なる点である。今でこそITの世界の巨人GoogleMicrosoftあるいはAppleであろうが、IBMが基礎研究の面でも「コンピュータの巨人」であることに変わりはないようである。