天下を取れない小川直也

 IGF大阪の陣、今回は小川がメインイベントに登場した。まだ試合のビデオを見ることができないのだが、どうやらまたしても消化不良に終わったようだ。5500人の観客というのは、大阪の地のイベントとしてはどうなのかも微妙なところである。

小川辛勝、猪木ビンタに意気消沈/IGF(nikkansports.com)
IGFプロレスリング「GENOME4〜大阪初見参〜」(sportsnavi)

 事実上、エンターテイメントをやっても消化不良だったハッスルから、再び猪木的なプロレスであるIGFへと転身した小川だが、どうもインパクトのある結果を残せていないようだ。10年ちょっと前に柔道からプロレスに転向した頃は、どれだけ革命を起こしてくれるかと期待していたのだが、なかなか猪木の言う「天下を取れない」ようである。
 10年前はちょうどPRIDEなどの総合格闘技が勃興してきた時期でもあり、プロレスが低迷し出してきた頃でもあった。小川はそんな時期のプロレス界の救世主として期待された面もあった。確かにプロレスは経験が少ないから上手ではなかったが、ナチュラルな強さは他の日本人のヘビー級選手にはないものであった。ちょうど昔のジャンボ鶴田に似て、底知れぬスタミナも持ち合わせているようだった。


 そしてプロレスとPRIDEを掛け持ちするような参戦をしていたのだが、どちらも中途半端なファイトをくり広げて、ファンにも消化不良の印象を与えていた。プロは勝ち負けだけでなく、戦いを通しての感動も与えられなければならない。試合を見た多くの人に「強い!」と思わせる感銘を与えられなければ、天下を取ったとはいえない。そのへんの無名の兄ちゃんがケンカに勝つこととは訳が違う。とはいえ、小川は決して弱いわけではない。日本人には数少ない本格的ヘビー級の選手であり猪木の弟子に当たるだけに、要求水準が高いだけである。


 柔道出身者では、PRIDEで小川に勝った後輩・吉田秀彦がいる。新たな格闘技イベント戦極」で小川と共通の敵となったジョシュ・バーネットに惨敗している。PRIDEがなくなって試合から離れていた影響もあるかもしれないが、小川より先に衰えてきたのかもしれない。
 また現役の柔道選手では、井上康生が世界戦で続けて破れ、五輪代表がピンチになっている。井上なども格闘技向きのタイプだと思っていたが、小川をはじめどうも柔道出身の選手というのは、礼儀が正しいことがあるせいか、大勝負にも精神的な弱さがあるような気がしてならない。要するに優し過ぎるのである。


 小川もこのままでは、あれだけ能力がありながら五輪で銀メダルに終わったように、プロの世界でも本当の頂点に到達できないまま終わってしまうことになりかねない。猪木にビンタされて意気消沈しているようでは駄目で、年齢的にも最後の大勝負をかけてほしいものである。近いところでは体格的にもほぼ同じ(190cm超)で並び立つと見栄えがするバーネットとの再戦で、勝敗以上に凄い戦いを見せてほしい。